令和4年度板野郡糖尿病性腎症重症化予防懇話会
-尿蛋白(尿アルブミン)測定検査の重要性―
糖尿病腎症重症化予防における日本糖尿病学会板野郡担当医
北島町 いのもと眼科内科 猪本享司
日本透析医学会の統計調査によると、2020年12月時点で、国内で透析療法を受けている患者数は34万7671人で、透析の導入患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症で40.7%に上り、人工透析に要する医療費は年間1兆6340億円にも上ります。こうした現状に鑑み、厚生労働省、日本医師会、日本糖尿病対策推進会議の三者は、糖尿病患者の重症化を予防する取り組みを全国に広げるため、2016年3月に「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」を締結し、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が策定され、各地域の実情に応じた具体的な取り組みが行われています。
板野郡においても糖尿病性腎症重症化予防懇話会を立ち上げ、2017年は川島病院糖尿病内科部長 野間喜彦先生による「糖尿病の早期介入・重症化予防に向けた医療者と自治体の連携」、2018年は徳島県国民健康保険団体連合会 折口明子先生による「糖尿病性腎症重症化予防対策の現状と課題」、いのもと眼科内科院長 猪本享司による「糖尿病性腎症の進展を抑制するために医師ができる事」、2019年は徳島大学先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター教授 松久宗英先生による「糖尿病性腎症重症化予防のための地域チーム医療」等の特別講演やディスカッションの場を設けてきましたが、2020年と2021年はコロナ禍のため開催ができませんでした。令和4年11月30日に北島町役場で各町の行政担当者、保健師、管理栄養士、薬剤師、医師等19名のリアル参加者と45名のウェブ参加者を得て3年ぶりに第4回目の懇話会が行われました。
板野郡医師会長 山根伸太先生より糖尿病網膜症でレーザー治療をした人が後に透析治療となることが多く、網膜症治療の有無に注意が必要だとの開会の挨拶の後、徳島大学大学院医歯薬学研究部腎臓内科学分野教授 𦚰野修先生から「糖尿病性腎症予防から慢性腎臓病予防への道のり」と題したご講演を頂きました。糖尿病性腎症や慢性腎臓病の病期分類にはクレアチニン値などの血液検査と尿蛋白(尿アルブミン)測定が必要であるが、尿検査があまり行われていないことが問題であるとのご指摘を頂きました。また糖尿病腎症の治療として降圧薬であるレニン・アンジ オテンシン(RAS)系阻害薬や糖尿病治療薬のNa+/グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬などに加え、最近では糖尿病で活性化しているミネラルコルチコイド(MR)受容体の作用を抑制するMR拮抗薬も使用できるようになったことなどをご紹介いただきました。講演会の後、各町の取り組みが報告され、𦚰野修先生からも御提言を頂きました。
このように板野郡でも糖尿病性腎症重症化予防に取り組んでおりますが、糖尿病や慢性腎臓病で治療中の患者さんには、ご自身の腎機能検査(血液検査)だけでなく、尿検査結果にも十分ご注意いただき、尿蛋白量やアルブミン尿が多い時には腎機能障害が進行し透析治療へ移行しやすいため、かかりつけの医師や町の管理栄養士などとよくご相談いただき、腎症の病期に応じた生活習慣の改善や食事療法、血糖・血圧・脂質のコントロールなどの包括的な治療が行えるよう板野郡医師会としても取り組んでまいりますので宜しくお願いいたします。